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Selfishly

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Pa20 「Calm a Holiday」


~ スローライフ ~
             Pa20 「Calm a Holiday」 H18,4/2 21:00



いつもなら、勢い込んで乱入する部屋だが、
ここ最近は 少し状況が違う。
 
まずは、静かにノックをして 
そんな控えめな事では返事がない部屋の主に気を使うように
静かに 薄く扉を開いて、中を窺う。
扉の外で、しばらく躊躇うが 意を決したように中に入っていく。

薄暗い室内の端にあるベットまで、足音を立てないように近づくと
安眠を貪っているベットの住人を 緩やかにゆすりながら
名前を呼ぶ。

「なぁ、ロイ。
 ごめん、もう時間 ギリギリだ・・・。」
申し訳なさそうな声音を響かせて、エドワードが告げると
もぞもぞと身体を動かせ、懸命に起きようとする様子が
少々 可哀相になる。

が、ここで下手な情をかければ 後に困る事になるのは
この男の方なのだ。
エドワードは、心を鬼にして 起きたがらないベットの住人を
本格的に起こしにかかる。

「ロイ! 起きろってば~!
 もう、時間ギリギリなんだよ!

 朝食、食べれなくなったら、
 もう、晩飯も作ってやらないぞー!。」

エドワードが ベットの横で そう喚くと、
今まで蓑虫のようになっていた男が、
パチッと目を開け、愚図っていたのが嘘のような動作で
起き上がり、返事を返す。

「それは困る!」

慌てて返事を返したのは、どうやら条件反射のようなものだったらしく、
しばらく、今の状況の把握に時間がかかっているのか、
ぼんやりと ベットで起き上がった自分と
横に居るエドワードを見比べる。

「・・・おはよう。」
いかにも寝足りなさそうな腫れた目蓋を見せながらも、
ロイは 横に立つエドワードに、にっこりと笑いながら挨拶をする。

「おう、おはよ。
 ハボック少佐が来るまで、後30分位だからな。」

そう言うと、以前なら さっさと部屋を出て行ってたエドワードだが、
最近は ロイが顔を洗いに行っている間に、
軍服や 靴や小物などの出勤準備を整えてやる。
一通り取り揃えて準備が終わると、
急ぎキッチンに戻って、食事の準備に取り掛かる。

温め終わって、セッティングし終わると同時に
身づくろいが終わったロイがやってくる。

「いつも、すまないね。」
エドワードに 礼を告げながら席に着くと、

「ほら。」
と、エドワードが 、目が覚めるような、グラスまで冷たく冷やした
果実水を渡す。

ロイが受け取り、美味しそうに飲み干すと、
食事を渡してやる。

ロイが 食事を始めると、エドワードは ロイの様子を窺う。
黙々と食事を進めるロイの目元には、
かなり色濃くした隈が浮いている。
顔色も お世辞にも良いとは言えず、疲労を漂わせているのが
気になるのだが、それは ここ最近では もう、当たり前になっていて
特に それ以上の変わった所は見えない事に納得するしかない。
エドワードは、込み上げるため息を飲み込んで
自分も食事を始めた。


エドワードが、こうも甲斐甲斐しく ロイの面倒を見るようになったのには理由がある。
現在、セントラルでは 市民を巻き込んでの大掛かりな発砲行為が続いていて
軍と憲兵が、手を組んでの捜査が続いていた。
捜査も大詰めに入ったようで、ここ半月余りのロイの多忙さには
エドワードの心配をさそう程になっていた。
昨日は 久々に帰宅してきたが、それもかなり深夜になっており
数時間の仮眠の後に、こうして出勤するとなると
軍で仮眠をした方が、少しは 睡眠時間も確保出来るのではと思う。
それでも、帰って来たのだから
少しでも 休めれればと、エドワードが 心を砕くのも無理からぬ程
ロイの様子は 酷い有様だったのだ。

「ほら。」と食後のコーヒーを手渡してやる。

「ありがとう。」と疲れた顔に笑顔を浮かべて受け取ると

嬉しそうにエドワードに話しかけてくる。

「エドワード、明日は やっと休みが取れてね。」

ロイの言葉に、エドワードが 驚きを示す。

「えっ!
 じゃぁ、犯人捕まったんだ。」

「あぁ、昨日ね。
 多分、今朝の新聞は その件でもちきりだろうな。」

やれやれと、肩を回す仕草が ロイの心境を良く現している。

「お疲れさん。」
エドワードも、心底 ホッとした笑顔を向けながら
ロイを労ってやる。

「あっ、でも まだ調べ物とか残ってるんだろ?」

「ああ、それは これからになるが、
 そこは、憲兵の領域になるんで、後は報告待ちだ。」

テロ行為かと思われていた この事件も、組織ではなく
犯行グループが民間だった為、事件の取調べは 今後は憲兵側が
行う事になる。
もともと両者は、仲が良いわけでもなく
今回も、テロか民間かが はっきりとしていなかったせいで
嫌々ながらも、互いの責任にしながら手を組んでいた事も有り、
犯行グループが掴まった段階で、軍は さっさと手を引き
憲兵は 苦渋を飲み込みながらも、軍に立ち入られたくない事を
示してきた。

「そっかー、良かったなー。」
エドワードにしても、これ以上のロイの過労が酷くならない事は朗報だ。

心配をかけていただろうエドワードが、嬉しそうに笑う表情に
ロイも、久々に肩の力が抜ける気分になる。


「でね。
 折角の久しぶりの休日なんだから、
 明日は どこかに出かけないかい?」

エドワードは、嬉しそうに告げてくるロイの顔をまじまじとみる。
1月ぶりになるだろう休みを前にしたロイは、
とても 外出出来る様な状態ではないように思える。
彼に 必要な休日は、ゆっくりと疲れを癒す事が先決だろう。

「・・・えっーと、俺 別に 出かけたい所ないし。」

せっかく貴重な休みに誘ってくれるロイが、どうしたら気分を害さないかを
考えながら、エドワードは控えめに断りを入れる方法を考え、頭をひねる。

「全然? 1つも?」

ガックリした様子で聞き返してくるロイに、
エドワードの方が、断る自分が悪いような気がしてくる。

「じゃあ、買い物なんかは どうかな?
 映画とかもいいな。
 久しぶりに、外で食事をすると言うのは どうかな?」

矢継ぎ早に 行き先を挙げてくるロイの様子は、
何としても エドワードと出かけようとする気概が見える。

『ってもな~。
 自分の顔みてないのか?
 そんなに疲れた顔して・・・。』

エドワードは、久しぶりの休日だからこそ
ロイには ゆっくりと休んで欲しいと思う。
けど、この男は 言い出したら 決して引かないし、
下手な断りをいれると、勝手な行動に走る事も考えられる。
それだけなら良いが、エドワードが断る事に対して
色々と憶測を広げて、暗い自己完結に浸らないとも言えない。

そうなればなったで、後々 フォローが大変になる事はわかっている。
ここは、エドワードが 折れるしかないだろう。

不安そうにこちらを窺うロイに、
エドワードは にっこりと笑ってYESの返事を告げてやる。

「わかった。
 折角 ロイが そう言ってくれるなら、
 俺が行きたい所でいいか?」

そう、返事を返した途端、明るい表情を見せ ロイが嬉しそうに返事を返してくる。

「んじゃー、行きたい所も、時間も 俺に任せてくれよな。」

「もちろん、構わないよ。
 どこか、遠出するようなら 車を出してもいいしね。」

ロイがエドワードの為に手に入れた最高級車も、
余り使われていない。
この際、ドライブをするのも良いかも知れないと
ロイは うきうきした気持ちで考える。

「それも、俺が計画しておくよ。
 とにかく、あんたは そろそろ出勤の用意した方がいいぜ。」

エドワードが ちらりと時計を見る仕草をすると、
もう、ハボックが来てもおかしくない時間になっている。

「そうだな。 
 では、君の計画を楽しみにする事にするか。」

そう言って立ち上がる足もとも、ロイの心境を表しているかのように
軽く浮き足立っているように見える。

玄関まで歩いていくと、ちょうど 車が入ってくる音が聞こえる。
エドワードが 扉を開いて外を覗くと、
ちょうど、車から降りてきたハボックと目が合う。

「おはよー。」

「おう、大将 おはようさん。」

事件が解決したおかげか、ハボックの表情も明るい。

「事件、解決したんだってな。
 良かったな。」

「そうなんだぜ~、もう 今回は時間かかってよぉー。
 さすがの俺らも参りそうになったぜ。

 まぁ、でもこれで 無事にデートの約束も出来るしで
 やれやれだぜ。」

「良かったな。」
と笑ってやりながら、心の中では
『少佐、彼女に振られてなかったんだ。』
と変な感心をしていたエドワードであった。

「ハボック、何をしている 行くぞ。」
二人が 立ち話をしている間に、ロイは さっさと車に乗り込んでいた。

「あっ、すんません。
 すぐに、車出します。

 じゃぁな!。」
エドワードに軽く手を振ると、ハボックは 急いで車に乗り込んで
発進させて去って行く。

「おう、いってらっしゃい。」
去って行く車を見送りながら、エドワードは 明日の計画を考えなきゃなと
頭を悩ませていた。


車の中では、エドワードに話していたとうり
明日のデートの想像でもしているのか、
ハボックが鼻歌を歌っている。

ハボックの浮かれぶりに ややあきれもするが、
自分も似たような心境なので、
気持ちはわかる・・・わかるが。

「ハボック、その締りの無い顔を何とかしろ。
 それと、鼻歌もやめておけ。」

聞かされて嬉しいものでもない程度では、
狭い車内では迷惑に等しい。

「んでも、嬉しいじゃないっすかー。
 
 中将も、嬉しいことあったんでしょ?」

バックミラー越しにロイに、ニカリと笑い顔を向けてくる。

「私か?
 私は いつもと変らないぞ。」

そう、ロイが言いきると
ハボックは、全く ロイの言葉を信じてない表情を浮かべて

「そうっすか?」と笑い返してやる。

『全く この人は、大将の事になると
 隠し事が出来ないんだから。』

それぞれが、久々の休暇に心を躍らせて
今日1日を乗り越しに集まっていく。
そんな休日前の司令部の面々であった。


が、上の者は 休みを前にも簡単には行かないものだ。
未処理の書類を黙々と片付けながら、
嬉しそうに帰宅するメンバーを見送ったのは
どれ位前になるだろう。
最後まで 残って付き合ってくれていたホークアイ中佐にも
帰るようにと指示を出し、
申し訳なさそうに帰っていく彼女が出てからも
数時間経っている。

事件に掛かっていた日々にも、当然 通常の業務は舞い込んで来る。
急ぎ以外は手をつける暇もなかったせいで、
溜まりに溜まっていた仕事を片付けるにも、
朝から休み時間返上で頑張って、やっと終わりが来たのも
そろそろ、深夜近くになろうという時間だった。

「さて、これで終われるな。」
はぁーと心底、ホッとしたように息を吐き出す。
急ぎ帰り支度をし、誰も居なくなった部屋を見回す。
さすがに、深夜近くなると 昼間は人の行き来で騒然としている軍も
当直の者は、それぞれの部屋で静かに待機しているのだろう。
いつもなら、疲れた足取りで歩く道のりも
明日が エドワードとの約束のお出かけが出来ると思えば
重い足を運ぶ気にもなる。

さすがに、この時間に歩いて帰る気にはならず
車を借り出そうと事務局に立ち寄ると、
本日の当直の者が、意外な事を告げてくる。

その言葉を聞いて、ロイは急いで玄関を出て
軍の門を抜ける。
しばらく歩いて行くと、見慣れた車が駐車していた。
思わず早くなる足取りで、車に近づいていくと
中から、エドワードが手を振っているのが見える。
ロイは 自然と込み上げてくる微笑を隠さず、
エドワードの開けてくれた扉から、車内に入り込んだ。

「お疲れさん。」

「ああ、君にも済まなかったね。」
車内に持ち込まれた本の数を見ると、
エドワードが ここで待っていた時間は決して短くはなかったのだろう。

「俺は別に急ぐこともないしな。」
そう微笑んで、ロイを見返してくれるエドワードの優しさが
疲れきったロイの身体に、温かく染み渡っていく。

「今日は、はりこんだから、期待してていいぜ。」

そう告げてくれるエドワードのおかげで、
ますます帰れる実感が増し、車内での時間が待ち遠しく感じられた。

夕食は エドワードが言ったように
ロイを労う為に、栄養も量も十分だった。
これだけ、落ちついて食事が出来たのも久しぶりだった事も有り、
ロイは ひたすら、食事を堪能するのに集中した。
満腹感に 浸っていると、エドワードが湯を張っているからと
風呂に入る事を勧めてくれるのに、そのまま甘える事にする。
湯船に浸かっている時から、閉じてしまいそうな目蓋を開けている事も
難しくなってくると、ロイは 溺れる前に風呂から上がり
エドワードが待ってくれているリビングに入る。

ゆったりとした時間が、今までの緊張感を溶かしたのか
疲れが どっと押し寄せて来るのがわかる。
ぐったりと座り込むロイに、
エドワードは 苦笑を浮かべながら、グラスを差し出す。

「ほら、寝酒。」

「・・・ああ。」
ぼんやりと出されたグラスの中身を飲みだすと、
疲れていた身体に回るアルコールは、
ロイの意識をもぼんやりとさせていく。

「あ~あ、髪 まだぬれてるじゃんか。
 ほら、タオル貸して。」

「・・・ん。」

意識が薄くなっているせいか、ロイはエドワードの言われたとうりに
素直に動く。

エドワードは、そんなロイに くすりと笑いを漏らしながら、
受け取ったタオルで、ロイの髪を丁寧に拭いていってやる。

優しく触れられる感触に、ロイの意識は まどろみ始めていた。
かすかに聞こえるのは、エドワードが口ずさんでいる歌だろうか。
朝、ハボックに聞かされた鼻歌とは 段違いに違う
優しく、美しい調べに ロイは、歌も上手いんだなと
手離さない意識の端のほうで、そんな事に感心していた。

そうこうする内に、手を引かれるままに付いていく。
まるで夢の中を歩いているような覚束ない足取りと頭で、
次に感じたのは、ふかふかと感触の良い物に全身を包まれ、
一気に身体の力と意識が抜けていく。

最後まで残っていた意識が、これだけは聞かなくてはと
思っていた事を、きれぎれに口に出させる。

「エ ド・・ワード、明日 時間・・・。」

すでに、眠りに落ちていたと思っていたエドワードは
ロイの そんな言葉に、驚いたようになったが、
少し屈んで、眠りにつこうとする男を安心させるように
小さな声で囁いた。

「大丈夫、俺が ちゃんと起こしてやるから
 それまでは、寝てろよ?」
そう返事が聞こえ、髪に触れる感触を感じると
ロイは、安心しきったように意識を手離した。
意識を手離す最後に感じたのは、頬に優しく触れる
温かい濡れた感触だったが、それが現の事か、夢の事かは
ロイには わからないまま眠りの中に沈みこんで行った。
『もう少し、感じていたい・・・』と願いながら。


熟睡に入ったロイを見守りながら、エドワードは
今の自分の行動に戸惑っていた。

『なんで、俺 こんな事までしたんだ?』

疲れたロイを休ませてやりたいとベットに連れてきてやったまでは良い。
疲れきっていたのだろう、ロイは すぐに眠りの体勢に入っていった。
なのに、切れ切れの意識の中でも
ロイは エドワードとの約束を気にかけてつぶやいていた。
ロイが、それだけ 自分との約束を気にかけてくれていると解ったとき、
エドワードは 思わず、込み上げてくる愛おしさに
思わず、 歳以上に若く見える あどけない寝顔をさらすロイの頬に
口付けを落としていた。

いくらなんでも、今の行動はおかしかったのでないだろうか?
そうは思うが、口付けてやりたくなった気持ちも嘘ではない。

「まぁ、親愛の情ってやつ?
 おやすみのキスって事で。」
そう自分と寝ているロイに言い訳をして、納得させながら
静かに部屋を出て行く事にした。



寝ている自分が、久しぶりに寝ているなぁと思うのは
なんだか変な感じだが、ロイは 自分が熟睡している事を感じていた。
時たま、意識は浮上したりもしたのだが、
身体は睡眠を欲していて、なかなか 覚醒に至らない。
しかも、外は まだ暗闇を保っている。
そう気配を感じると、疲れている体は 素直に意識を閉ざしていく。

そうこうするうちに、さすがに 寝ている事にも身体が飽きたのだろう、
意識がはっきりとしてくるのを感じながら、
ロイは 久しぶりの睡眠を取れた事に満足しながら、
思いっきり伸びをする。

まだ、薄暗い室内を変だと思いながら ベットに上に置かれている時計を見る。
針は 早朝を示す位置にあったが、
さすがに これはおかしいと思い、手元の明かりをつけてみる。

「・・・やられた・・・。」
室内を一通り見回して、何故 部屋が こんなにも暗いのかを察した。

部屋には、窓がなくなっていた・・・。

「エドワード!!」
焦って走りこんで来たロイを、驚いたように見て
挨拶をしてやる。

「よう、おはよう。
 良く寝れたか?」

「ああ、それは 十分、
 いや、でも そうではなくて。」

焦る余り、文章にならないロイの言葉を聞いて
エドワードは、噴出して笑う。

「あんた、何 焦ってるんだよ?
 とにかく、落ち着いて座れよ。」

ふと足元を見ると、ロイは素足のまま 部屋履きも履いていない。
エドワードは、この部屋にも用意されているスリッパを用意してやる。

「ああ、すまない。」
さすがに、今の自分にバツ悪く感じたのか
素直にエドワードの用意した部屋履きを履いて、
ソファーに腰掛ける。

「それで、エドワード・・・。」
ロイが情けなさそうな表情で、話しかけるのを
エドワードは、穏やかに言葉を紡いでストップをかける。

「ロイ、今日は 俺が行きたい所に行くんだろ?
 時間も 俺が決めて良いっ言ってたよな?」

「あっああ、しかし この時間では・・・。」
外出するには、もう 日が落ちるのも早くなっている今では
外も薄暗くなっている。

「いいんだよ、この時間で。
 
 だって、夕食の買い物に出かけるんだから。」

「夕食の買い物?」
惚けたように返すロイに、エドワードは 可笑しそうに笑いを湛えたまま
「そう。」と返事をする。

「今日の予定は、夕食の買出しをして
 ちょっと散歩しながら家に帰って、あんたと夕食を作る事。
 んで、一緒に ゆっくりと過ごす!」

どう?っと、悪戯小僧のような笑みを湛えてエドワードが言いきると、
ロイは、脱力したように ソファーに沈み込む。

「買出し・・・。」はぁーとため息を吐き出すロイを見て、
エドワードが、不満そうな顔を見せる。

「何? 俺の立てた計画に不満があるのかよ?」

「いや、別に不満があるわけでは・・・。

 けど、せっかくなんだから、 もっとこう何か特別な場所とか・・・。」

残念そうに言うロイに、エドワードは 至極 真面目な顔で話す。

「でも、俺 あんたと夕食買出しに行った事ないぜ?
 散歩もした事ないしさ。
 特別な場所じゃなくても、普段と違うこと出来るのが
 休みの日の特権だろ?」

「普段と違う事・・・か。」
そう言えばと考える。
以前の休暇では、日常の事は すべて二人で過ごして行った。
けど、ここ セントラルに戻ってからは
何かを二人でするという時間は、皆無に等しくなっていた。
そう考えると、確かに 初めての事ではあった。

「そうだな・・・、買出しも面白そうだな。」
そうロイがうなずくと、
エドワードも、嬉しそうにうなずく。

「では、張り切って買出しに行くとするか。」
と、勢いよく立ち上がるロイに、エドワードが待てをかける。

「エドワード?」

不思議そうに名前を呼ぶロイに、エドワードがキッチンに手招く。

「行く前に、まず あんたは 腹ごしらえ。」

キッチンに入ると、すぐに簡単に食べれる物が用意されていた。

「これは、反則だけど。」と鍋からスープを注ぎ
渡す前に 練成で温めて渡す。
途端に 良い香りが広がり、ロイのお腹の虫が鳴り出す。

慌てて、お腹を押さえるロイを見て、
エドワードは 声を出して笑い出す。

「そりゃー、お腹も空いてるよなー。
 だって、あんた 半日以上寝てたんだから。」

「すまない。」
赤くなって食事を始めるロイを見守りながら、
エドワードも 自分用に入れたスープに口をつける。

冷ます為に、息を吹きかけながらカップにつけるエドワードの唇を
見ていると、昨日 口付けられた夢の感触が浮かんでくる。

『あれは・・・、夢での事・・・のはず。』

それにしては、感触まで思い出せる程 リアルさがあったが。
そんな事を考えてエドワードを見ていたせいか、
気づいたエドワードに、足らないのか?と不審がられる。

それに首を振りながら、夢でも 惜しいことをしたなと
目覚めていれなかった自分を少し恨めしく思いながら、
食事を食べ終えた。



「あんた、一体 何人前作るつもりだったんだよ。」
可笑しそうに言って来るエドワードに、
ロイもむきになって言い返す。

「そう言う君は、しまり屋すぎるんじゃないか?
 なんで、国軍中将の食事にタイムセールに突撃しなくちゃならないんだ。」

「だから、この時間狙って買い出しにきたんじゃないか。
 そういうあんたは、無駄使い多すぎ。」
べっーと舌を出すエドワードに、やれやれと肩をすくめる。

二人の買出しは、かなり色々な意味で有意義なものだった。
とにかく、買い物に入る店自体から違い、
どこに入るかをもめた末、今日の計画者のエドワードの意見が優先されたが、
1つの物を買うにしても、手を出す品の金額が 全く違い、
どちらの品をおくかでもめた。
結局、1品づつ交代で選ぶ事に決めたのだが、
ロイが 買い物籠に放り込む品を見ては、エドワードが嘆くので
ロイは その度に いちいち何故これを選ぶのかを
説明するはめに陥った。
二人分の夕食を買うにしては、かなり時間がかかってはいたが、
最後には 二人で、タイムセールに飛び込む事で
買出しは終了した。

「あー、でも 面白かったー。」
屈託なく笑うエドワードにつられて、ロイも苦笑する。

「確かに。
 君が こんなにしまり屋だったのもわかったしね。」

二人は、店の端に設置されたコーヒーコーナーで
買い物で込み合う店内を、眺めている。
ロイにしてみれば、いつもの店ではなく
庶民の店の中は なかなか賑やかな雰囲気を
可笑しそうに眺めていた。

「こういう店は、家族連れも多いようだね。」
店内では、母親に連れられてきたのだろう子供達が
賑やかに 商品の棚を探索している。

「そうだな、買い物は 子供にとっても
 手伝える家事の中では、楽しみな行事だからな。」

「君も?」
エドワードが話す言葉には、懐かしさと温かさが滲んでいる。

「そうだぜ。
 俺ら 男3人居たから、揃って出かけるときは
 これでもかって位持たされたからな~。」

でも、持たされたのは 主に親父で 俺らはあんま戦力には
なってなかったのが、本当のところだけどな。

目の前では、家族総出で買い物にきたのだろう親子が
荷物を持った親に、手を繋ぐのを強請っている。
小さい方の 女の子が父親の空いてる方の手を嬉しそうに握ると、
姉であろう子供が、駄々をこねている。
父親の1つしか空いてない手を、互いが引っ張りあって譲ろうとしない。

「お前は お姉ちゃんなんだから。」と父親に諌められて
泣きそうな顔をしている子供の顔が見えた。


「同じだ~。」
横に居るエドワードが、面白そうに言う。

「君も、手を繋ぐのを強請った方なのか?」

「うんにゃ、俺は そこまで子供じゃないぜ。

 親父が一緒に出てくるなんて、滅多に無かったから
 アルが手を繋いでもらってた。」

「・・・それは、お兄さんとして偉かったな、」

「別に。
 手を繋いでもらうのが嬉しいほど、子供じゃなかっただけさ。」

そう言うと、飲み終わった紙のカップを握りつぶして、
くず入れに捨てる。
ロイも 同様にカップを捨てると、店から出て行くエドワードの後を追う。

エドワードが、弟のアルフォンスを優先させるのは
昔からのようだった。
本当は、自分も めったに無い機会を欲しかっただろうに、
そんな子供の時から、甘えるのも強請るのも下手だったんだなと
感慨深くロイは考えると、ちょっとした思い付きが頭に浮かぶ。

散歩をするには、少々寒い時期で どうしても、足早になりがちだ。
ロイは、先を歩くエドワードに声をかける。

「エドワード、せっかくの散歩なんだから
 こっちから帰ろう。」

帰り道にある 広い公園は、普段なら 余り立ち寄る事も無い。
ここは、広い広場の他、景観を楽しめるような遊歩道もあり、
市民には人気の憩いの場所となっている。

「えっ、良いけど 寒くないか?」

広い公園だけあって、ここを回って帰るとなると 結構時間を喰ってしまう。
ロイが さっさと入っていくので、エドワードも仕方なしに足を運ぶ。

さすがに、この時期 日が落ちた公園内には人けが無い。

「寒くないかい?」
ロイが 横で歩くエドワードに声をかける。

「俺は、結構着込んでるから大丈夫だけど、
 あんたは 結構寒いんじゃない?」

季節感の薄いロイは、外出の際に 軽く羽織る程度の服装で出てきている。
エドワードより、寒さが堪えるのではないだろうかとエドワードが心配すると、
ロイは あっさりと「寒い」と答えて来る。

「だから、言っただろうー。
 散歩には、寒いって。」

「そうだな、ほら 手もこんなに冷たくなってしまった。」
ロイが差し出す手を、どれとばかりにエドワードが握る。

「本当だ。 かなり冷たいぜ。
 早く帰ろうぜ。」

ロイの手の冷たさに驚いたエドワードが、急いで歩き出そうとするが、
ロイは 手を離す気配がない。

「ロイ?
 早く帰ろうぜ。」
握られた手を 離す様にと軽く振ると、
ロイは、「ああ」とうなずいて歩き出す、エドワードの手を繋いだまま。

ロイに引っ張られるように歩き出したエドワードが、焦って声を出す。

「ロ、ロイ。
 手ぇ、離してないって。
 歩き出したんなら、離せよ。」

「離したら、私の手が また冷たくなるじゃないか。」

そう笑って流すと、そのまま手を引いて歩き出す。

「ちょっ、ちょっとー!
 恥ずかしいだろ! 
 いい大人の男が二人で。」

引っ張られながらも、キャンキャンと騒ぐエドワードにも
ロイは 構わず、しっかりと手を繋いだまま歩いていく。

信じられねぇ、恥ずかしいだろとぶつくさ言うエドワードに
「まぁまぁ、誰も居ない事だし。」とか「公園を出るまで。」とか
のらりくらりと言い返しながら
二人は 手を繋いだまま、ゆっくりと公園を歩いていく。

エドワードも、ロイが離す気がないとわかると、
あきらめて手を預けたまま歩いて行く。
多分、顔は赤くなってるだろうけど、この暗さではわからないだろう。
もう、好きにしろよな気分で 開き直ると、
ゆっくりした歩調で歩くロイに合わせて、エドワードも散歩を楽しむ事にする。

ポツポツと取りとめもない会話を口数少なくし、
のんびりと、ところどころライトに照らし出されるライトが見せる景観を
眺めながら歩いていくのは、思ったより気持ちが落ち着いてくる。
寒いはずの外気も、不思議な事に そんなに感じない。

『繋いでる手のせいかな・・・。』
そんな事を エドワードはぼんやりと思い浮かべる。
先ほどまで冷たかったロイの手も、今は エドワードの体温が移ったかのように
温かさを伝えてくる。
触れ合った手から伝わる温もりは、腕を伝い 身体を伝って広がるように
エドワードを温めていく。
横を見ると、ロイも同様なのか 先ほどまでの寒そうな様子もなく
ひどく、満ち足りた表情で 楽しんでいるようだ。

手を繋ぐという行為は、温かさを分け合うだけでなく、
ひどく安心感をももたらすものなんだと、エドワードは 初めて知った。
ずっと、こうして歩いていたいような、
こうして歩いて来た様な、不思議な感覚がエドワードを包んでいく。

公園を出ても、どちらからとも手を離しがたく
結局は そのまま家まで手を繋いで戻ってきた。
後日、誰かに見られてはいたのではと思い当たり、
エドワードが、羞恥で居た堪れない気分を味わう事にはなったが、
ロイは ひどく この散歩が気にいったらしく、
また、次回の休みのときにと しつこく誘ってくる。



穏やかに過ぎていく休日は、それぞれにとって
満ち足りた休みとなった。
互いに寝る前に、繋いでいた手を見つめていたのは
それぞれ解るはずもない。

ロイは、エドワードの温かさを感じた手を大切そうに抱いて眠りに付き
エドワードは、奇妙な感覚を宿した自分の手を不思議そうに見つめて眠りに付いた。
そして、手を繋ぐと言う事が そんなに恥ずかしい事でもないんだなぁと
感じた感覚に戸惑いを持ちながら。


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